
意見書案第10号「選択的夫婦別姓制度の導入に向けた一日も早い民法改正を求める意見書」について、昨日の本会議をネットで聴いておられた方から、内容をもう一度、教えてほしい、という声がありましたので、賛成討論(賛成意見)をそのまま以下に貼り付けます。
意見書案第10号選択的夫婦別姓制度の導入に向けた一日も早い民法改正を求める意見書提出の件につきまして、提出者の一人として賛成の立場からの意見をのべます。
選択的夫婦別姓制度につきましては、今回の意見書と同趣旨の「選択的夫婦別姓の導入へ一日も早い民法改正を求める意見書」として、4年前の2020年3月議会において市民から請願が出され、意見書として当時の西宮市議会として一度採択し、国に意見書として出されております。しかし、この4年間を見ても、国においてはこの議論がほとんど進まず、改めて地方からの意見書を提出すべきとの立場から提案するものであります。
そもそも現行の民法に従って行われているこの国の夫婦同姓という制度は、明治時代の後半、1898年――明治31年施行の民法によって始められたものであります。それまでの武士あるいは貴族が政治の中心にいた長きにわたる時代、町民や農民のほとんどは姓、いわゆる名字を持つことが許されなかったのを、1870年――明治3年に明治政府が一般市民に名字を称することを許し、その後、1875年、名字を称することが義務化され、翌1876年の太政官指令においては、妻は夫の家を相続する場合は夫の氏を称するが、それ以外は所生の氏を用うべきこと、つまり生まれた家の氏を用いるべきとされました。
1870年以降は、同姓の強制ではなかったわけです。しかし、1898年、民法が施行されると、いわゆる家制度が始まり、同時に夫婦同姓も始まったのであります。家に氏は一つであり、当時の民法第746条で家の名を氏といい、戸主及び家族は全て同一の氏を称するとされました。この1898年の民法には、1947年の改正まで、民法第14条では妻の無能力規定も存在していました。女性は婚姻で夫の家に入ると、契約や相続など法律行為を行うには夫の許可が必要で、妻一人で法律行為を行うことができないという差別的規定が存在していたのであります。これら一連の女性への差別的民法の条項は、言うまでもなく明治時代、女性に参政権もなく、選挙権もない時代に、男性の、しかも一部の特権を持った男性が女性の人権など顧みることなく、男性による男性のためにつくり上げられた法体系でありました。
戦後、この女性が男性の姓を名のらなければならない条項は、民法第750条の改正で、「夫婦は、婚姻の際定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と改正されましたが、昨年の内閣府の調査では、95%の女性が夫の姓となり、改姓による不利益・不都合は、ほとんどの場合、女性だけに負わされています。
一見、性別に無関係と思えるルールや取扱いでも、運用した結果、どちらかの性別に偏り、不利益を被っている扱いになってしまうことを「間接差別」と申しますが、夫婦同姓の義務づけ自体が間接差別の結果を生み、憲法第14条及び第24条に抵触する結果を招いています。
それを言い換えれば、旧民法――明治民法の残滓、残りかす―がもたらした状況であると言えます。
しかし、戦後、1955年の法制審議会民法部会第2回で、夫婦異姓――別姓の意味ですが、夫婦が異なる姓を認める案が議論され始めていました。
1980年代に入ると、結婚改姓に疑問を持つ女性たちが少しずつ声を上げ始めていました。そして、1991年、法制審議会では、婚姻及び離婚制度の見直しのための検討に入っています。
1996年1月には、法制審議会民法部会が民法の一部を改正する民法改正要綱案を決定し、民法第750条の改正案として、夫婦は、婚姻の際に定めるところにより、夫もしくは妻の氏を称し、または各自の婚姻前の氏を称するものとするという文言が示されています。
同年2月、選択的夫婦別姓導入と非嫡出子の相続分差別撤廃を主な内容とする民法改正要綱案が法務大臣に答申されました。
しかし、政府、与党自民党内での反対が強く、6月に国会提出は見送られたという経緯があります。
意見書案に示しているように、世界で夫婦同姓を義務づけている国は日本だけであり、国連の女性差別撤廃委員会は、2024年10月29日を含めて4度にわたり、法律で夫婦同姓を義務づけていることは現状においては女性差別となり、直ちに改正すべきことを勧告しています。
これは少し前になりますけれども、中日新聞の2015年のアンケート調査ですが、選択的夫婦別姓についてどう思うかについて、自分たちは夫婦同姓がよくてほかの人も同姓であるべきだと答えた人は、男性の全体の30.4%、女性は10.4%でありました。
それに対して、自分たちは同姓あるいは別姓であるとしても、他の人が別姓を選択するのは自由だ、と答えた人は、男性の66.9%、女性は実に85.8%に上りました。
つまり、もとより私的領域の民法が個人の姓に何を名のるかを規定すること自体に制度疲労が起きているのであり、人が他人に自分と同じ価値観である姓を規定することの不自由さに多くの人が気づいているのです。
また、本年、日本経済団体連合会も、結婚後に夫婦が同じ姓を名のることを義務づけている日本の制度が企業活動を阻害していると訴え、選択的夫婦別姓の導入を求め政府に提言書を出すに至っています。
この間、一向に動かない国会への失望とともに、2011年以降、選択的夫婦別姓訴訟が何組にもわたって提起されています。2015年の第1次訴訟の判決は合憲と判断されていますが、夫婦の姓に関する制度は国会で論ぜられ、判断されるべき事柄として、三権分立の役割分担を示唆しています。しかし、この裁判で、女性の社会進出が進み、姓の変更は個人の識別に困難を生じさせていることや、96%――これは当時の数字です。96%の夫婦が夫の姓を選んでいる現状は、憲法第24条第2項、個人の尊厳と両性の本質的平等に反することから、違憲であるとの反対意見も付されています。
2021年の第2次夫婦別姓訴訟でも、合憲とした上で、第1次判決と同様、この問題は国会で論ぜられるべき事柄として、違憲判断というよりも、立法への投げかけが行われたと言ってもいい判断でありました。そして、2024年――本年、第3次訴訟が提起されています。
第1次訴訟で違憲であると反対意見を述べた櫻井龍子元最高裁判事は、「最高裁判決が出るまでにまた数年かかると見込まれるが、違憲判決が出る可能性は十分にある、特に間接差別や国会の立法義務の懈怠、裁量権の濫用といった論点が注目されるであろう」と述べられています。
最高裁では国会での議論を促す判決が続いているにもかかわらず、この問題については国会で前に進めようという動きがなぜか鈍く、むしろ後退している感のある約30年でありました。
同じ民法の改正条項であっても、1996年の民法改正要綱案の中で改正すべきとされた非嫡出子の相続分差別の条項は、その後、改正に至っています。
また、離婚後6か月経過しなければ再婚できないという女性差別規定であった民法第733条、いわゆる女性の再婚禁止規定は、2015年の上記と同じ時期に行われた最高裁判決を受けて再婚禁止規が離婚後100日へと縮小されました。結果として、夫婦同姓を強制する条項の問題だけが先送りとなっているのです。
国家が個人のライフスタイルを画一化し、文字どおり同調圧力をかけたのが明治時代の明治民法の中で刷り込まれたパターナリズム、言い換えれば家父長制度でありました。
しかし、21世紀の現在、仕事を続けるキャリアの中で、あるいは個人のアイデンティティーの問題として、どちらの姓を名のるかの選択肢を設けるだけというこの民法改正に反対しなければならない理由はないと考えます。
もしこの選択的夫婦別姓制度が成立しても、パートナーと同姓を名のりたい人の人生は今までどおり変わりません。これまでどおり同じ姓のカップルとして生きていけるのは当然のことです。
でも、その結婚によって改姓することが不都合であったり不自由だと考える人や、生まれたときからの姓を名のって別の姓の人とも共に生きたいという人の自由も認められるべきではないでしょうか。
そのことで同姓を選んだ人たちに無論、迷惑をかけるものでもありません。今までどおりの人生、生活が続きます。
本意見書案にぜひ御賛同いただきたいと思います。 以上、賛成討論といたします。
本意見書、採決では、19対20で否決されてしましました。
反対された会派は、日本維新の会 西宮市議団、会派・ぜんしん 、 啓誠会 と無所属議員(男性)一人の20票でした。
また、西宮市議会には、女性の議員は現在10人ですが、そのうち、9人は、この意見書案に賛成でした。